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ヨウ素(ヨード)過剰摂取の危険性について

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2011年03月29日(火) 16:49 by drharasho

ヨウ素(ヨード)過剰摂取の危険性について説明します。

生半可な知識による ヨウ素の過剰摂取は、健康障害を起こします

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放射性ヨウ素の健康への影響を防ぐため、一定以上の被曝が予想される場合、
安定ヨウ素剤を服用することになっています。

 その標準的なヨウ素量は、新生児が12.5 mg 、生後1か月以上3歳未満が 25 mg 、
3歳以上13歳未満が 38 mg 、13歳以上40歳未満が 76 mg
となっています。
 服用するのはヨウ化カリウム(KI)で、その量とするとそれぞれ、16.3 mg , 32.5 mg ,
50 mg , 100 mg となります。

 このヨウ素の量がどれくらいかというと、成人の1日必要量が 250 μg(WHO推奨)
ですので、必要量の300倍
と言うことです。

 また日本人の基準である、「日本人の食事摂取基準」(2010年版)では、
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4al.pdf
成人摂取推奨量を 130 μg 、上限を 2.2 mg /日としています。

 ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料であり、ヨウ素が不足すると甲状腺機能低下症を
引き起こしますが、多すぎても、つまりヨウ素過剰でも甲状腺機能低下症を引き起こす
ことがあります。

 この現象はラット(ねずみ)の実験で確かめられ、発見者の名前をとって、
Wolff-Chaikoff effect(ウォルフ-チャイコフ効果)と呼ばれます。

 その機序(しくみ)ははっきりとは明らかにされていませんが、過剰なヨウ素が、
甲状腺細胞の中に蓄積されるため、ヨウ素から甲状腺ホルモンを作る過程が妨害され、
その結果、甲状腺ホルモン産生が低下してしまうと考えられています。

 安定ヨウ素剤服用による放射性ヨウ素の甲状腺への取り込み防止
(甲状腺ブロック)そのものも、安定ヨウ素剤で甲状腺細胞を満たしてしまう、
という考え方ですが、その後、甲状腺ホルモン産生まで阻害してしまう恐れ
についても、知っておく必要があります。

 「ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません」という学会などからのお知らせは、
すでに知られていると思いますが、じゃあ、体に悪くない「昆布」や「海草類」なら、
沢山とっても「害」はないだろうし、予防的に食べてもよいのではないか

と考えている人がおられるようです。

 それは大きな間違いです。

 大事なことですが、安定ヨウ素剤服用は 1回 だけが原則です。

 その理由は、安定ヨウ素剤の効果が24時間続くので、その間に、
放射性ヨウ素に曝されない、安全なところに避難するのが目的だからです。
 つまり、安定ヨウ素剤による防御が目的ではなく、安全なところに避難するための、
時間を稼ぐのが目的だ、ということです。

 また、なぜ何回も服用しないのか、ということですが、もちろん放射性ヨウ素に
曝される続ける場合は、数日間服用することもあります。
 しかしそれは、やむを得ない場合であり、例外的なことです。

 なぜかというと、連続して過剰ヨウ素を摂取すると、Wolff-Chaikoff effect
(ウォルフ-チャイコフ効果)
 
による甲状腺機能低下症の危険性が高まるからです。
 この甲状腺機能低下症になる危険性には個人差があり、過剰摂取した
全員がなるわけではありませんし、大人の場合、短期間甲状腺機能低下症になっても、
それほどの影響はありません。

 しかし、妊婦と新生児、乳幼児は違います。
 
 昔の痰を切る薬(去痰薬)には大量のヨウ素を含むものがあり、その去痰薬を、
長期に服用した妊婦から生まれた赤ちゃんに、巨大な甲状腺腫があり、気管を圧迫して、
呼吸困難になり死亡した
などの、報告が続きました。

 お母さんの薬の中のヨウ素が、胎盤をとおして赤ちゃんに移行し、赤ちゃんの
甲状腺にたまって甲状腺機能低下症を起こしたと考えられ、それ以後、妊婦での
服用が止められました (Carswell F et al.: Congenital goitre and hypothyroidism
produced by maternal ingestion of iodides. Lancet 1970; 1(7659): 1241-3)。

 こうしたことは、現在でも時々報告されています。

 例えば、妊婦が服用するビタミン剤に製造過程で間違って大量のヨウ素が混入し、
それを服用した妊婦から生まれた赤ちゃんが、生まれたとき甲状腺機能低下症だった
という報告があります (Thomas Jde V et al: Perinatal goiter with increased iodine
uptake and hypothyroidism due to excess maternal iodine ingestion. Horm Res
2009; 72(6): 344-7)

 これらの論文は外国のものですが、日本でも似たことが起きています。

 熊本県で新生児マススクリーニングをうけた赤ちゃんで、ろ紙血中のTSHが高値で、
先天性甲状腺機能低下症が疑われた例の中に、お母さんが昆布や昆布だしを沢山摂取し、
そのため赤ちゃんがヨウ素過剰状態となって、甲状腺機能低下症となった例が、
大勢いたことがわかった
という報告です(Nishiyama S et al: Transient hypothyroidism
 or persistent hyperthyrotropinemia in neonates born to mothers with excessive iodine
intake. Thyroid 2004; 14(12): 1077-1083 )。

 大人はあまり健康障害の恐れはない、といいましたが、例えば、1日昆布 15 g (ヨウ素として
35 mg )を連続55~87日間摂取したところ、明らかな甲状腺機能低下症となった
ことも、
日本からの論文で報告されています(Miyai K et al: Suppression of thyroid function during
ingestion of seaweed "Konbu" (Laminaria japonoca) in normal Japanese adults. Endocrine
Journal 2008; 55(6): 1103-8)。

 昆布にはこのように大量のヨウ素が含まれており、長期の連日の摂取は、甲状腺機能低下症の
危険が大人でもありますが、本当に甲状腺ブロックが必要なときには、十分量のヨウ素摂取が
保証されない
ということも報告されています(Takamura N et al: Urinary iodine kinetics after
oral loading of potassium iodine. Endocrine Journal 2003; 50(5): 589-93 )。この論文は、現在、
福島原発事故の対応に当たっている、長崎大学の山下俊一教授の研究室で行われたものです。

 改めて書きます。
 生半可な知識による ヨウ素の過剰摂取は、健康障害を起こします
 とくに妊婦、新生児、乳幼児にはとても危険なことです。

 「安定ヨウ素剤」が本当に必要となって、1回服用した場合の、妊婦や授乳婦、新生児、乳幼児などの、
その後の甲状腺機能検査のことや対処方法については、日本小児内分泌学会の「震災小児甲状腺
プロジェクトチーム」が標準的な方法を検討しており、近日中に学会ホームページに掲載されます。


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